「火は罪をきよめ/罪そのものとなり/火は恐怖であり/希望であり」-。詩人、谷川俊太郎さんの「三つのイメージ」は火は人類にとって良い面と悪い面があることを強調する
▼火は闇を照らす。長い冬、人々を暖める。「平和へのたいまつ」にもなる。一方で火は「戦いへののろし」になる。「あらゆる国々で城を焼き/聖者と泥棒を火あぶりに」もする
▼その詩は水についても語る。「水はのろいであり/めぐみであり」。水は人をうるおす。せせらぎの歌を聞かせ、水車を回す。が、時に顔を変え「水は岸を破り家々を押し流し」
▼東日本大震災の「3・11」となった。あの日、「希望」ではなく、「恐怖」の方の火と水を日本は見た。家々を焼く炎、原発事故、津波。人々に恩恵を与えてくれるはずの火と水を大地震は恐怖へと変えてしまう
▼毎年めぐってくる「3・11」。その日そのものが季節を定めて常世からやって来る「来訪神」のように思えてくる。秋田県の「ナマハゲ」や能登半島の「アマメハギ」は鬼の姿となり、人の怠惰を戒める。「3・11」という来訪神が伝えているのは希望の火や水を恐怖へと変えた震災の記憶と備えを怠ってはならぬという警告だろう
来訪神(らいほうしん)とは、正月やお盆などの節目に人間の世界に訪れる神様で、仮面や仮装をして人里に現れます。怠け者を戒めたり、魔を祓い幸福をもたらしたりするとされています。
【来訪神の概要】
- 地域によって仮面や仮装がさまざまで、鬼や妖怪のような異形の姿をしている
- 行為や言葉などによって人々に生きる力や知恵を授けたり、災厄をはらったりしている
- これによって人々は、豊かで健やかな生活が続くことを信じた
【来訪神の例】
▼14年が経過した。「3・11」の来訪神の恐ろしい姿にもわれわれは次第に「慣れっこ」になっていないか。戒めの言葉を聞き流してはならないのに。